物忘れ ・その2・ 軽度認知障害とは?

前回は主観的認知障害について説明しました。今回は認知症状がもう一段階進んだ状態といえる「軽度認知障害」について紹介します。

軽度認知障害とは、主観的にも客観的にも認知障害を認めますが、基本的な日常生活機能に支障はなく、認知症とは言えない状態のことを言います。簡単に言うと、本人が物忘れを自覚するだけでなく、家族や周囲の人も「ちょっとおかしい」と心配しているのですが認知症とまでは言えない状態です。そのため、このような方が病院を受診する場合は、家族同伴で受診することが多くなります。

軽度認知障害は、英語ではMild Cognitive Impairment (MCI)といわれ、専門的には「健忘型」と「非健忘型」の2つのタイプがあります。「健忘型」では記憶障害がみられ、「非健忘型」では、少し難しい話を理解できない、または話せない、意欲の低下や性格変化などの症状が多く見られます。軽度認知障害と診断された場合、およそ年間10%の方がアルツハイマー型認知症へと移行する可能性が指摘されています。特に「健忘型」が、アルツハイマー型認知症へと進行することが多いようです。しかし、軽度認知障害と診断されても症状が進行性に悪化するとは限らず、その後の評価で正常と判断されることもあります。そのため、軽度認知障害をなるべく早く診断し、その後の進行を抑えることが大切です。

当院では、軽度認知障害の可能性がある方には、まず本人や家族から記憶障害や認知機能障害の程度を聞かせていただきます。必要な場合は、医師が長谷川式簡易認知症スケールや他の認知機能評価の検査を行ない、画像診断として頭部MRI検査にVSRAD解析を追加しております。VSRAD解析とは、頭部MRI画像データを利用して、主に早期アルツハイマー型認知症の診断を補助するソフトウェアです。アルツハイマー型認知症では、側頭葉の内側に存在する海馬などに特徴的な萎縮が認められることが知られています。この解析を用いることにより、その特徴的な萎縮を捉えることが可能となり診断の参考にしております。

担当:峯田

物忘れ ・その1・ 主観的認知障害とは?

個人差はありますが、人は40歳代や50歳を越えた頃から物忘れを自覚するようです。自分の20歳、30歳代と比較して記憶力が低下していると感じるようになり、「人の名前が出てこない」、「車の鍵など、いつも使っている物の場所が分からなくなる」などを自覚すると、「自分もボケたかな?」と心配になります。そう言う私も、人の名前が思い出せないのは日常茶飯事ですが、先日シャワーで洗髪中、自分がシャンプーを使っているのかリンスを使っているのか分からなくなり不安になってしまいました。友人に相談すると、「泡立ちでわかるだろう…」、「シャンプーとリンス、一体型を使ってはどうか..?」といわれ、その通り!と納得しましたが自分の不安の解消にはなりません。

同じような不安を持つ40歳や50歳代の方が病院を受診することがあります。物忘れがひどくなったと自覚し、アルツハイマー型認知症になるのではと心配しています。この様な方は、主観的認知障害という状態であると言えます。

主観的認知障害とは、主観的に認知機能の低下を自覚しているが客観的には認知機能の低下を認めない状態です。簡単に言えば、本人は自分の認知機能の低下を自覚しているが、他人にはその人の認知機能の低下が認識できない状態です。そのため、病院を受診する場合は、ほとんどの人が一人で来院されます。主観的認知障害は、英語ではSubjective Cognitive Impairment (SCI)といわれ、別名として主観的記憶障害(Subjective Memory Complaints: SMC)といわれます。

皆さんが一番知りたい事は、このような状態からどれくらいの人が今後紹介する「軽度認知障害」、そして認知症へと移行していくのか?だと思いますが、残念ながらまだ詳しくは分かっておりません。勿論、主観的認知障害から症状が進行し認知症まで移行する可能性はありますが、必ずしも移行するものではないと考えられます。

加齢により物忘れを感じる事は、誰でも経験します、そのような時は一人で悩むことなく、まずは信頼できるパートナーや友人に相談することが大切です。また、20歳、30歳代の方に多いようですが、ストレスによる「うつ状態」や生活環境や仕事の環境の変化に適応できない「適応障害」が原因で物忘れを自覚することがあります。そのような場合は、心療内科や精神科を受診しましょう。

担当:峯田

顔面の痛み ・三叉神経痛と舌咽神経痛・

皆さんは、顔面の痛みといえば虫歯だろうと思う方が多いと思います。でも頭の病気でも顔面の痛みが来る場合があります。それも、ビックリするような痛みです。今回は、その中でも三叉神経痛(さんさしんけいつう)と舌咽神経痛(ぜついんしんけいつう)についてご紹介いたします。

三叉神経痛とは

まず、三叉神経とは主に顔面の感覚に関係する神経です。3つに分かれて、オデコ、ホホ、アゴの部分の痛みを感知します。三叉神経痛とは、この神経が何らかの原因で過敏に反応し、突然激しい痛みが出現する病気です。この病気の特徴は、①片側の顔面に、②針で刺されるような、焼け付くような激痛が突然起こり、数秒から30秒くらい続きます。多少個人差はありますが、痛みは電撃痛とも言われ非常に強いものです。大先輩の先生方からは、「昔はお坊さんも痛みに耐えられず自殺してしまった。」、「外科医も自殺したよ。」という怖い話を聞かされました。③痛む場所としては、ホホやアゴの部分が多く、洗顔や歯磨き、食事などで痛みが誘発されることがあり、その恐怖で顔も洗えず、歯も磨けないため、生活に支障を来たしてしまいます。この病気の詳しい説明は、当院HP上の脳神経外科領域の主な疾患(三叉神経痛)を参照してください。

舌咽神経痛とは

舌咽神経はその役目の一つとして、舌の後ろ側1/3の部分や口の奥(扁桃、咽頭)、耳の奥(中耳)の感覚に関係する神経です。この神経も過剰に反応することにより、三叉神経痛と同じように激しい痛みを発することがあります。痛む部位は舌のつけ根から喉(のど)、耳の奥にかけて激痛がするため、歯科や耳鼻咽喉科を受診したりします。三叉神経痛と同じように、食事で物をかんだり飲み込んだりする時に痛みが誘発されることがあり、食事もできなくなります。また、舌咽神経は、心臓の動きを調節する迷走神経という神経の近くを走行しており、稀ではありますが痛み発作と同時に意識を失ったり(失神)、心臓が止まったりしてしまうことがあり注意が必要です。

三叉神経痛や舌咽神経痛の主な原因は、これらの神経の特定の部位を、頭の中の血管が圧迫することにより起こります。その治療法は、まず(カルバマゼピン:商品名テグレトールTM)を内服します。最近ではプレガバリン(商品名:リリカTM)という新しい薬も使えるようになりました。薬で効果が十分でない場合には手術療法を検討します。血管の圧迫から三叉神経や舌咽神経を解放する手術です。また、その他の治療法として神経ブロックやガンマナイフによる治療法があります。顔面痛でお困りの方は、痛みの診断や総合的な治療方針を検討するために、ペインクリニックや脳神経外科を受診しましょう。

三叉神経(V)を血管(SCA)が圧迫している状態

 

三叉神経(V)を血管(SCA)の圧迫から解放した状態

脳神経外科ジャーナル 17: 754-760, 2008

妊娠中や産後の片頭痛と頭痛薬

片頭痛はたいてい10~20代で発症し、男性よりも女性に多い傾向があります。そのため、片頭痛を持つ方が妊娠や出産を経験するケースも多く、「今まで飲んでいた薬が使えるのか」といった相談を外来ではよく受けます。そこで、妊娠期間中や産後の頭痛に関して、お薬の話を中心にまとめてみました。

            一般的に、妊娠期間中は約60~80%の女性患者で片頭痛発作の頻度が減少すると言われています。一方で分娩後は、1ヶ月以内に半数以上の患者で片頭痛が再発します。

【妊娠4週未満】

胎児の器官形成は開始されていないため、この期間に片頭痛薬を数回使用したとしても心配いりません。

【妊娠4週から15週末まで】

器官形成期の絶対過敏期(妊娠4週から7週末)と、一部で分化が続いていて奇形を起こす危険のある相対・比較過敏期(妊娠8週から15週末)までは薬剤の使用は控えてください。

【妊娠16週から分娩まで】

奇形の心配はなくなりますが、胎児の発育や機能的発達に影響する危険があります。特に、バルプロ酸(デパケン、セレニカ)、NSAIDs(ロキソニン、ブルフェンなど)、エルゴタミン(ジヒデルゴット、クリアミン)は危険性が以前より唱えられています。

トリプタン製剤においては、妊娠期間中の使用の安全性は確立されていませんが、スマトリプタン(イミグラン)が妊娠中の使用に関して最も報告が多く、胎児奇形発生の危険性を増加させなかったと報告されています。

片頭痛に対して処方されることもある漢方薬の呉茱萸湯(ごしゅゆとう)は、子宮興奮の作用があるため、妊娠中は慎重投与とされています。

日本頭痛学会が推奨している妊娠期間中の片頭痛治療薬は以下の通りです。

・急性期頓服薬:アセトアミノフェン(カロナール、タイレノール)

・予防薬:投与しないことが望ましい。必要であればβ遮断薬(プロプラノロール)

 

【授乳期】

スマトトリプタンを使用した場合は使用後12時間あけて、その他のトリプタン製剤を使用した場合は、使用後24時間あけて授乳してください。

当院では、原則的にガイドラインに則った薬剤の処方を行いますが、片頭痛にお困りで、治療のご相談をされたい方は、どうぞご来院ください。

 

参考:日本頭痛学会編集「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」

漢方医薬学雑誌2010, Vol.18 No.4

「突然、記憶が消えてしまう!!」~一過性全健忘とは?~

先日、ビジネスマンが3人、不安そうな顔つきで診察室に来られました。3人のうちの一人Aさん(50代男性)が、昨日大阪から出張で上京し、夜に3人でビール片手に楽しく食事した後、ホテルにチェックインしました。しかし、本日朝になってもAさんは出社してこないため、携帯に電話したところ、「自分はどうしてここにいるのか?」、「昨日の記憶がない?」としどろもどろに答えたようです。そのため二人はホテルからAさんを連れて当院を受診しました。

Aさんは自分の名前や住所などは答えることができますが、なんかおかしい、すっきりしない、自分はどうしたんだ?と訴えます。付き添いの二人は、昨日楽しくお酒を飲んでいたAさんが、突然どうしたのかと驚いています。

このような時に、頭に浮かぶ病気が「一過性全健忘」です。

一過性全健忘とは、突然、数時間前からの記憶がなくなってしまう病気です。自分の名前や住所などは覚えていますが、どうして自分はここにいるのか、などの状況が分からなくなり、何度も同じ質問をしたりします。これは大変だと周りが心配するのですが、症状は通常、24時間以内に消失しますのでご安心ください。Aさんのように中年の方に多く見られる病気です。脳の記憶に関係する海馬(かいば)の機能が一時的に低下するのが原因と考えられています。他の病気と鑑別する必要があり、必ず病院を受診する必要があります。

Aさんを含めて、3人にこの病気について説明し(Aさんは覚えていないと思いますが)、念のため頭部MRI検査行いました。結果は、海馬領域を含め異常はありませんでした。検査が終わった頃には、Aさんは「スッキリした、スッキリした。」といつもの表情に戻ってきたようでしたが、まだ同じ質問をしたりするため、こちらはまだスッキリしません。そのため付き添いの一人の方に、新幹線で家族の待つ新大阪まで同行してもらい、翌日に念のため近くの病院へ受診するよう、紹介状と画像情報が入ったCDを持参させました。数日後、紹介先の病院から報告書が届きました。Aさんは翌日には元通りの状態になり家族も安心しているとのことでした。

顔面のぴくつき(けいれん)について

顔面が一瞬ピクピクとけいれんするようなことは、多くの方が経験したことがあると思います。パソコン作業や事務仕事で目が疲れている時や、ストレスを感じるときなどに起こります。多くはストレスを発散することにより改善しますが、長く持続する人は、自分は病気ではないかと不安になります。病院を受診する前に、まずは自分のピクツキがどんな病気かを理解することが大切です。

 

今回は、顔面のぴくつきについて、病院を受診するタイミングについて説明します。顔面がピクツク病気は主に3つが考えられ、①片方のマブタがぴくつく:眼瞼(がんけん)ミオキミア ②片方のマブタとホホが同時にぴくつく:顔面けいれん、③両方のマブタがぴくつく:眼瞼けいれんがあります。

 

① 眼瞼ミオキミアとは

眼瞼(がんけん)ミオキミアとは、眼の周りの筋肉(眼輪筋)の一部がピクピクと痙攣する状態で、普通は下マブタに起こります。健康な人でもパソコン作業などで目が疲れている時や睡眠不足の時などに、一時的にこういった症状が出現することがあります。そのような時は、睡眠を十分にとり、眼を休めることが重要です。多くは1週間程度で改善しますが、持続する場合や口元にもピクツキが出現した場合は、眼科や脳神経外科を受診して下さい。

 

② 顔面けいれんとは

顔面けいれんとは片側の眼の回りやほほ、口元がピクピクと痙攣(けいれん)する病気です。ほとんどが片側に出現するため片側顔面痙攣(へんそくがんめんけいれん)ともいわれます。症状が進行すると、片側のマブタとホホが同時に痙攣し顔が引きつってしまい、話し相手もビックリします。生活や仕事に支障が出る前に脳神経外科を受診しましょう。この病気の詳しい説明は、当院HP上の脳神経外科領域の主な疾患(顔面痙攣)を参照してください。

http://www.yaesu-noushinkeigeka.jp/commentary/03.html

 

③ 眼瞼けいれんとは


眼瞼けいれんとは眼の周りの筋肉が過剰に収縮し目が開きにくくなる病気です。多くは両側性で、まぶしく感じたり、目が乾く感じや眼の周辺の不快感などを伴います。そのためドライアイや眼精疲労と自分で勘違いしてしまうことがあります。目が全く開けられないほどの重症な人は少ないのですが、軽い症状でも持続するようであれば、まずは眼科を受診しましょう。